寺報 清風










 名古屋市中区・中日劇場にて3月6日から幕が開いた、前進座公演『法然と親鸞』です。法然(俳優・中村梅之助が演ず)、親鸞(嵐広也)ともに比叡山で仏道修行されたのち、民衆に仏の救済としての“念仏”のみ教えを広められました。おおよそ八百年前のこと、六字の名号を称えて“平等”と“非暴力”を訴えました。

 当時は身分が不平等でした。上下関係が厳しく二人の教義が、時の権力者・既存の宗教勢力にとっては厄介な存在でありました。危険思想とみなされ、二人ともに流刑の憂き目を見ました。法然は四国・土佐に、親鸞(劇中では範宴、さらに綽空)は越後に。法然上人は就学中「智慧第一の法然坊」と評されたエリートの学僧でした。その彼が比叡山を離れて京都の地に出て、民衆のために新しい仏教を説き始めたのです。(第一幕)

 いつの時代にも強者と弱者で構成されている。その中で弱者はいじめを受け、苦悩に呻吟せざるほかありません。大勢の貧しい民衆がいました。貧しいがゆえに生活に追われつつご法度の破戒の行為を犯す人々がそこにはあった。阿弥陀仏は、そのような人々を見放されるはずはない、慈悲の仏はきっと民衆を救おうとされている、と。そう見据えた法然上人は、民衆が救われるための新しい仏教を模索し、やさしく念仏の教えを説き広めたのです。(第二幕)

 「念仏の教え」という絆で結ばれた心温まる“舞台”は、まだまだ続く。真宗門徒の方々はもちろんのこと、有縁の方々をお誘いご鑑賞ください。一人ひとりの人生を見直すご縁がいただけましょう。



<母の法要>

 前坊守(チカ子=静白院釈尼妙誓)の祥月は、毎月の定例“逮夜のお勤め”(2月27日・午後3時から)に合わせて勤修しました。勤行後には「死して出遇う」と題して、青藤忍師(豊田市・行徳寺)の御法話を拝聴した。

 本年のこの法要には、莫言さん、諏訪哲史さんの参詣があった。神戸の老朋友、毛丹青君(エッセイスト)が、来日中の莫言さんの東京での取材、収録を済ませた後の空いたスケジュールの中でお連れいただいたものでした。

 全く一面識もない諏訪さんだが、私の方から突然電話をかけてみた。「莫言さんとお話されませんか」とやや強引にお誘いした。それで寺にお越しになられた。法要後、深夜まで酒を友として談義は続いた。さらに翌28日の昼食まで、寺と園児交流にもお付き合いくだされた。

 莫言さんには、今回も“原稿とお話”を依頼した。“子供に聞かせたいお話”が毎回のテーマ。今回は第3回目である。毎回2話を執筆。したがって今回は第5・6話分を発表されました。特に今回はストーリーの中に“動物”を登場させてと注文しておいた。

 朝食後に“お話”のペンを執り、続いて書を揮毫下された。使用されていた紅いボールペン(カランダッシュ製)は、そのまま置き忘れてあった。関西に移動した翌日、愛用のペンは、寺に記念品として置いたのですと、携帯にかかってきた電話で知ることとなった。很好事。

 園児の前にあって、穏やかな表情、口調で語ってくださった。題して『遠くから戻ってきた猫』。中国語を聞いた毛さんが訳してやさしく話す。子供たちが真剣に耳を傾けたのは言うまでもない。

 2年前のこと、莫言さんは福岡文学賞・授賞式に来日したなか、教育委員会の提案で市内の中・高生を前に、莫言さんが講演するのはどうか、と。しかし盛り上がった話題も徐々に冷めていった。周りの人たちの多くが嘆いた。莫言さんが話?中学生には難しすぎないか。純文学?ダメでしょう、といった状況になったからである。

 莫言さん曰く、「私は過去に来日した折、2度にわたり保育園(徳風)の園児にお話をした。だが5歳の子供は予想に反して、私の話を興味深く、楽しく聞いていた。幼児に大うけでした、歓待してくれていましたよ。」周りは唖然とした。本当か?幼児が文豪の話に耳を傾ける?中国の文学者が語るのはどんな話か、と。すかさず曰く、「私の小説は、私の生命=エネルギーといっても良い。よってお話する内容には、いのちとの呼応があります。国が違えど、世代が離れようとも、伝えたいことは響いたようです。私は子供達の笑顔から、喜びを頂戴しましたよ。」と答えたというエピソードなどなど・・・。

 特注品の「莫言饅頭」(市内の両口屋喜泉謹製)を口に運ばれて、にこやかにご披露されました。

 99年11月3日にお立ち寄りの折には、母も接待に入ることができた。しかしその後、ただちに入院、半年後には還浄した。母の最期のおもてなしの客人が莫言さんであった。時に87歳の母。時の経過は8年。その母の命日法要にようこそお詣りいただけたと、毛君に感謝している次第である。多謝、多謝。

   


   



<新刊本の紹介>

『転生夢現』莫言著

 人間として出生することは夢か?銃殺された男がロバとして、猿などに転生するという、途方もない物語。本書の“帯”には、「アジアで最もノーベル賞に近い作家」と評してある。
莫言:中国映画『紅いコーリャン』の原作者として著名な小説家。一昨年、映画化された『故郷の香り』も大好評であった。『豊乳肥臀』、『白い犬とブランコ』など多数の著書が各国で翻訳され紹介されている。吉田富夫訳、中央公論出版。

『アサッテの人』諏訪哲史著

 奇妙な顔輪が飛び交う言葉の底に、突拍子もない思考が眠っている、と作者は訴える。人の思いの深層心理を抉ったストーリー。アブノーマルでアカデミックな世界を書き上げた本書は、昨年度の芥川賞の受賞本。また群像新人文学賞とW受賞ともなった。今月末には新刊『りすん』が発売予定。





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2008年3月号

法然と親鸞
発行所
真宗大谷派 称念寺
発行人 住職 伊勢徳