寺報 清風











 今年、本山・東本願寺でご縁のあった佐野明弘という僧侶が、石川県加賀市にある光闡坊(コウセンボウ)という寺におられる。その方より、アレン・ネルソンさんの3回忌法要にご案内いただいていた。アレン・ネルソンについては、『ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?』(講談社)という著書があり、私は直接会ったことはないが本は読んでいた。

 知識としては、彼はアメリカのベトナム戦争帰還兵の黒人で、戦争で人を殺した後にホームレスとなり、友人に誘われて小学校で戦争の話をし、そこで本のタイトルともなる「あなたは人を殺しましたか?」と女の子に問われたことから、真実を伝えなければならないとベトナム戦争の従軍体験を講演される方だ、ということ程度は知っていた。しかし、佐野先生に法事に誘われて初めて、彼が亡くなっていたことを知り、また先生に出遇ったことで真宗門徒「釈阿蓮」となられたことにも驚いた。

 北陸は遠く、今回は参詣しないつもりであった。しかし、ある晩観ていたテレビ番組で、ベトナム戦争で米軍が使用した枯葉剤の影響を題材とした映画『花はどこへいった』(坂田雅子監督)の特集をやっていた。ベトナム戦争は1975年に終わったが、現在でもベトナム人に重度の奇形児が産まれ続けており、その映像に驚いた。死産、手足がない、両目がない、全身ケロイド状の皮膚、頭が二つ…。両親も含め、彼らが懸命に生きる姿があった。

 また米国人帰還兵の子孫にも同様の奇形があり、米国政府には認定されていないとのこと。親の兵役による先天性の奇形、学校でのいじめ、原因である国家にも理解されない孤独と苦悩による心の傷を、私ならどう受け止めるのか考えさせられた。

 また、アレンさんの著書を再度読んでみた。言葉では「戦争に行って人を殺した」ではあるが、実際には戦闘の最前線に立つ海兵隊員として、殺人を目的とした徹底的な訓練を受け、軍務とはいえ村落で女性や老人、子供をも虐殺し死体を並べ、隠れている夫であり父親でもあるベトコン兵士をおびき出しては殺し、時には仲間を殺された報復の為だけに村人を皆殺ししたという。また捕虜を拷問し、「何故私たちを殺すのか?」と問う目の前のベトコン兵士を、ただ連れ帰るのが面倒だという理由だけで頭を撃って殺し井戸に投げたのだ、と。これは大変なことだと思い、急遽光闡坊にお詣りさせていただくことにした。


 わがこころのよくて、ころさぬにはあらず。
 また害せじとおもうとも、百人千人をころすこともあるべし

   親鸞(『歎異抄』第13条より)


 法要は2月22日の昼からであったが、北陸へ行くなら、と住職の使いで同日午前中に3時間程、能見市にある社寺建築会社を訪ねることになったので、今年新たに知り合った小松市の友人宅に前泊することにした。当日、光闡坊に着くと、早速黒衣に着替え、外陣にてお勤めさせていただいた。

 非常にユニークな3回忌法要で、読経が第1部、第2部として映画『ご縁玉』が上映された。この映画は、アレンさんと交流のあった山田泉(通称:山ちゃん。乳がんを発症して学校や施設などで命の大切さを説き続けた保健室のおばさん。著書『「いのちの授業」をもう一度』など。2008年逝去。)と、ベトナム戦争孤児として生まれ、フランスの養父母のもとで育った音楽家エリック・マリア・クテュリエとの出会いのドキュメンタリー映画である。ちなみにエリックさんの生まれたダナンという町は、アレンさんが戦闘員として初上陸した場所でもある。

 引き続きエリックさん本人のチェロ演奏。エリックさんはパリ国立高等音楽院に首席で入学、23歳でパリ管弦楽団に入った世界的チェリストである。映画の中でも演奏されたバッハの「無伴奏チェロ組曲」プレリュードが深く心に響いた。

 第3部には参加費500円、本堂にて交流会が行われた。焼酎を持参した私だが、映画『ご縁玉』の江口方康監督もパリ在住、他にもフランス人と思しき参詣者もいて、おでんや魚と共にテーブル上にはワインが並べられていた。アレンさんの元通訳者、東京の会社員、北陸の大工さん、大阪のおばちゃんなど、全国から参詣者があり、楽しい交流のついでに色々と勉強もさせていただいた。

 夜も更け人も徐々に減り、最後に残った監督と私で外へ行くことになった。12時も過ぎており、加賀市街では開いてる店もなく、最初に見つけたお好み焼屋へ。2件目はタクシーでスナックへ行ったが、素晴らしい映画を撮った監督とサシで酒が飲めるというのに、前日に深夜2時まで友人と飲んだ疲れか、夜中の2時頃にあえなく沈没。監督の歌も聞かずに店で寝てしまったのであった。

 今回、佐野先生から、アレンさんは憲法9条の大切さに気づき、平和講演をしつつも、自らの都合で他を害し続ける自身の闇を見つめた方だったと教えていただいた。先生を通してアレンさんに出遇い、エリックと監督を通して山ちゃんに出遇い、人間はつながりを生きていることを改めて実感させられた。北陸の貧乏寺での宿泊は暖房もなく凍えたが、いのちのつながりを通して、亡くなられた大切な人に出遇うことのできた暖かい3回忌法要であった。


[文章 若院]



 ≪仏事 Q&A≫

 葬儀や法事、報恩講などの仏事にお詣りする時や、寺院へのお礼の金封は、どのように表書きをするか?
以上、基本的な例を表記したが、表書きの下に「氏名」を、裏面に金額を記します。宗教宗旨により様々な書き方がありますが、大谷派では「お経料」「御霊前」の表書きは致しません。



 ≪本山750回忌 団体参拝バス 募集≫ 

 宗祖・親鸞聖人滅後750年、その御遠忌法要(前半の部)が3月18日から5月28日まで、本山・東本願寺にて厳修される。法要期間中の指定された日時に参拝することとなりました。

 日時 5月28日(土)午後6時
 参加費 9000円
 定員 約50名(バス1台)



 この時期「正信偈」の練習を重ね、三河別院・報恩講(3月4日)に合同参拝した。別院のお御堂で園児達は元気な“おつとめ”をした。その見事な唱和ぶりには一般参詣者をもうならせた。もうすぐお別れ、第86回目の卒園証書授与式がある。4月に入学式おめでとう。その中に孫の一人の顔もあった。



 梅一輪 一輪ほどの 暖かさ (嵐雪)

 花の雲 鐘は上野か 浅草か (芭蕉)






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2011年3月号

アレン・ネルソン3回忌
発行所
真宗大谷派 称念寺
発行人 住職 伊勢徳