寺報 清風











 すでにご存知の方もおられるが、称念寺・建設委員会が取り組んできた新本堂建設の施工会社である丸平建設株式会社(代表取締役林寛、岐阜県揖斐郡)が本年の1月19日(月)に倒産した。資金繰りが行き詰まり自己破産の申立を行ったのだ。倒産当日にも棟梁・大工さん達は寺で夜まで仕事をしており、順調に進んできた本堂建設も三月下旬には「上棟式」の法要を迎える予定であった。受注前には財務調査もしていたので、当日に本山・東本願寺での職務のため京都にいた私や住職をはじめ、皆が緊急の事態に驚愕した。

 急遽、本社工場に赴くと私達同様、他の債権者らも詰め掛けていた。正面の門には紙が貼ってあり、債権者の代理となる弁護士が自己破産の申立を行い、後に管財人が債権者に分配する商品や動産類(主に木材)の持ち出しは厳禁であり、抜け駆けをすると窃盗罪で告訴する旨が告知されていた。とはいえ、称念寺の住職が、15年前から購入・準備し支給した溶剤や彫刻類が多数保管してあり、旧本堂の古材も含め間違いなく称念寺の所有物である。悲願の新本堂に必要なものばかりで、住職は窃盗の罪を一人被るつもりで強行搬送するトラックを手配したが、最後には現場で留まり断念した。実際に他の寺院関係者が搬出を実行し警察が出動した騒ぎも起きており、また集金に来た他の債権者も金目の物を持ち出そうと現場は騒然としていた。

 私はすぐさま債務者の弁護士に連絡し現場の警備を依頼したが、倉庫の鍵も壊れたままで改善もされなかった。寺に戻ってすぐに複数の弁護士に相談を持ち掛けたが、同じ事案に対して返答がそれぞれ違っている。いずれにせよ、寺の所有物を他人の敷地内から持ち出すことが窃盗罪となる一方で、管財人が決定し一括して差し押さえられると称念寺の部材が売却される可能性のある非常事態であった。私と住職は、ある弁護士が不可能だと明言した、「仮処分の断行」を助言してくれた岐阜の弁護士に可能性を見出した。債権者は誰しも過払いがあるなか、裁判所に陳述・申立をし執行官と共に鍵を壊し、会社や代理弁護人に知られることなく秘密裡に所有物を持ち出してしまう法的措置だ。

 そのためには緊急搬出の必要性や盗難の可能性に加え、丸平の広大な敷地内の複数の大型倉庫に木材が大量に保管されてあるなか、一つ一つの部材の所有権を証明しなければならない。一方で、称念寺の建設現場にも多数のリース商品があり、フェンス、仮設事務所、自動販売機、簡易トイレ、鉄板等の業者も倒産直後から引き揚げに来ておりその対応に追われた。最も重要なのは、建設途中の新本堂を風雨から守る素屋根であった。すでに支払った素屋根代金は丸平から業者には未払いであり、撤去されると雨で部材が膨らみ割れてしまうので、仮養生や一時解体まで考慮しなければならない。1月23日に住職と設計士の古橋さんと共に滋賀県にある素屋根の社長宅に赴くと、継続使用を快諾いただいた。倒産からこの日まで、夜も眠れず光明のない暗闇のなか右往左往し、ことの大きさに首を括る覚悟まで話し合ってきた住職の眼から初めて涙が頬を伝っていた。

 21日には臨時役員会、25日は臨時建設委員会を開催し報告もさせていただいた。連日、資料作成の指示を仰ぎながら古橋さんと共に大量の資料を揃え、岐阜の法律事務所に持ち込んだ。倒産から私も住職も衣を着て法務をする時間もなく、ご門徒には迷惑をおかけするばかりであった。丸平の保管状況を確認し写真も撮影していたのだが、本社では債務者の代理弁護人の指示で称念寺用材も移動され、資料に明記した保管場所が不明となったとの情報も入っていた。28日には陳述書と共に仮処分申立を裁判所に提出し、受理した裁判官は事態を重く見て、最短で2月1日に仮処分の執行が決定された。すぐさま搬出のトラックやリフトを手配し保管場所を確保するが、最大の懸念は丸平建設本社の出入り口のバリケードであった。門の鍵は壊せるが大型トラックやリフトで塞がれたバリケードで、搬出する当方のトラックが侵入できないのだ。

 執行前日に監視に行くと正門のバリケードがない状態であった。夕方まで住職に頼み、夜通し門前で見張っていると、案の定朝方にトラックが道を塞ごうとやってきた。私は門を乗り越え身体を張ってトラックを止めたのだが、運転手が代理弁護士に連絡し秘密裡の仮処分が露見してしまった。執行官や抵当権を持つ銀行員らも次々と現場入りし、私の主張は代理弁護士の弁説にやり込められそうになっていた。称念寺側の弁護士の先生が到着すると、弁護士同士で所有権について議論が始まったが、裁判官の決定と共に先手を打った当方に理があった。本来であれば強行搬出に使用できない電源とホイスト(運搬機器)等も駆使し、2日間にわたり20トンの大型を含む10台以上のトラックで搬出した支給材は、総額3500万円相当の膨大な量であった。改めて本堂建設の重大さを実感させられた。

 競争入札時、丸平建設は住職のこだわった称念寺の特注本堂を施工することで更なる宣伝効果を期待し、赤字覚悟の最安値で受注していた。結果的には出来高(4割)の相当価値で過払い金額は相殺され、また支給材が無事に返還されたことで今後の施工に向けて準備が整いつつある。しかしながら、大変な苦労で寄付されてきた多くの方々の願いを裏切り、歴史的な事業を頓挫させた丸平経営陣の愚行は決して許されるべきものでない。また支給材の引取では偽装工作ともとれる、関連企業の倉庫に大型シートに覆われ違う寺院名のタグが貼られた称念寺の部材まであった。

 今回の倒産劇で自身を見つめなおし、また種々の立場や考え方の違い、金銭面での保身や裏切り、人の誠実さや温かい励ましなど、様々な人の生き方とその姿を勉強させていただいた。そのなかでお念仏の照らす人間像はやはり「さるべき業縁のもよおせば、いかなるふるまいもすべし」(『歎異抄』第13条)であった。各々が決して思い通りにならない人生に迷い、虚仮を内に抱きながら生きる人間を見つめる如来の眼差しは「大悲」であった。ご心配をおかけした門徒の皆様方にはここにお詫びさせていただくとともに、改めて大切な仏教の教えを聴聞する道場の完成に向けて、住職を支え精一杯取り組んでいきたい。

[文章 若院]



 築200年以上を経た旧本堂を新築するにあたり、平成21年6月に建設委員会が発足した。以来「丈夫で長持ち」の新築本堂の建設を目指し、会議にて様々に協議検討しながら計画をしました。平成24年には設計士との契約をし、翌25年1月に競争入札に至りました。厳選した社寺建築会社7社による入札で、本堂本体工事(玄関の間を含む)の見積額は丸平建設が提示した1億5千5百万円に対し、他の6社の平均額は2億7千万円超でありました。特に丸平建設については、赤字でも称念寺の受注実績を後の宣伝効果につなげたいとの経営判断があり、上記の代金が算出されたものでした。実際に、丸平が倒産した時点では、愛知県、岐阜県、大阪府まで広範囲にわたり寺院だけでも7ケ寺の建設に携わっていたことです。

 当方としても、本堂本体建築費の予算は1億9千万円を算出しており、寄付金に依る事業であり限られた予算のなか当時の選択肢は他になく、また丸平建設に対する財務調査や過去の実績等も十分に検討したうえで決定したことです。しかしながら不況の折に他の業界同様、伝統的な社寺建築でも価格競争が激化していました。平成18年には一宮市の社寺建築である中村建設、平成20年には老舗の金剛組が、平成25年には称念寺の競争入札にも入っていた藤田社寺も含め倒産が相次ぎました。丸平建設においても、称念寺の本堂受注時より経営状態が急激に悪化し、今回の倒産に至りました。

 称念寺では、丸平建設への1億5千5百万円の支払いは5分割とし、工事の進行に伴い6割の9300万円を支払っていた状況です。現在、本堂及び玄関の間の工事の出来高は42%であり、約3000万円の過払いによる損失が発生しました。しかしながら現在の出来高の適正な価値は支払い済みの金額に相当し、現時点での最大の問題は次なる施工会社との契約とその金額になっており、これには慎重なる対応を致します。

 今は支給材の返却を終えて、各部材の数量を確認しつつ、各保管倉庫への搬送にあたっています。他にも課題は多くありますが、本来であれば本年12月に予定していた本堂工事の完了は半年ほどの遅れが予想されます。新本堂の地下室に設置される収骨室の完成を待っている方も多く、できる限り近い時期での完成に向け、建設委員会の方々と共に協議しつつ進めさせていただくことです。また3月22日は「上棟式」を予定し協賛いただくとて協力を呼び掛けてまいりましたが、以上のような事情で順延いたします。伏して、悪しからずご寛怒ください。合掌


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 寒がりやの私は雪解けという季語を耳にすると冬場の寒さから解き放たれる明るい気分になる。真冬の1月19日の丸平建設倒産から絶望の崖っぷちに立たされた丸2か月だった。ご門徒さんに、建設委員会各位にも大層な心痛をおかけしました。本堂工事中断からの雪解けは工事の再始動にあります。まだまだ課題が多くあるなか待ちわびる顔が、お声が聞こえてきます。

 京都大学の松沢哲郎教授はヒト科のチンパンジーを研究することで「人間とは何か」を問い直している。氏によるとチンパンジーは目の前にある事柄を認識・把握することにたけて、絶望することがない。けれども人間は「創造する力」があるから、遠く離れた過去や未来、地球の裏側にも思いをはせ、絶望もするが希望も持てる存在なのだという。

 季節に寄り添いながら、四季折々に沸く私たちの感性は、豊かな風土によって育まれてきた。感性の源は「創造する力」であり、互いを思いやる心から生まれているように思う。

 願わくば この功徳をもって 平等に一切に施して
  同じく菩提心を発して 安楽国に往生せん

 お彼岸には亡き人をおもい、亡き人からいただいた尊いご縁をいただく1日です。どうぞお誘いあわせお参りください。






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2015年3月号

建設事業の頓挫
発行所
真宗大谷派 称念寺
発行人 住職 伊勢徳