寺報 清風












 京都の本山・東本願寺では修学旅行の多い5、6月に、若手僧侶が境内を案内し法話するという新しい試みが数年前から始まった。京都、奈良の定番コースには教科書に掲載される歴史的な建造物や国宝級の仏像も数多い。京都で寺を観光するなら有名な舞台のある清水寺、室町時代の栄華を象徴する金閣寺、巨大な三門から男坂へと続く知恩院、秋なら紅葉の美しい東福寺など、東本願寺よりオススメの寺は沢山ある。綺麗な庭園もなく、おみくじやお守りの販売すらない東本願寺の良いところと言えば、拝観料が無料だというくらいだ。しかしながら、奈良の大仏や清水の舞台を見て周ると、東大寺や清水寺の僧侶には申し訳ないが「ここは一体、お寺なのだろうか」という根本的な疑問を感じてきた。だからこそ、東本願寺が中高生達にも仏教の教えに触れてもらう、寺の原点に回帰したことは大切なことだ。

 今年、私は初めて修学旅行生の案内役をさせていただいた。最近の修学旅行は、男女混合のグループでタクシーを借り切って、運転手さんが観光ガイドを兼務する形態が多い。子供達にどんな話をしたら良いのか悶々とした不安を抱えながら、衣に着替え下駄を履き参詣に来た学生達に声をかける。聞くと中学1年生だという。私にはいつも母親に怒られてばかりの小学6年の娘がおり、下品な替え歌を口ずさんで笑っている彼女と同年代に話をするのか、と頭を抱えてしまった。親としても感じてきたことだが、子供と正面きって向き合うのは大変なことだ。他にも観光する日程があるので、時間も限られている。聖徳太子の名前くらいは学校で習うが、親鸞聖人や浄土真宗はもとより仏教についても全く初めて触れる可能性のある子供達だ。基本的に、坊さんは葬式や法事で衣を着てお経を読む人だと思われている。自分の言葉で大切だと感じてきたことを話し仏の智慧に触れてもらうなど、えらいとこへノコノコ出て来てしまったと少し後悔した。

「わかきとき、仏法はたしなめ」 蓮如上人御一代記聞書

 しかし始てみると意外に、子供達と一緒に過ごす時間が楽しく感じられた。まず世界最大級の木造建築である、境内の中心に聳える御影堂の外観を眺め、スマホで記念写真を撮ってあげたりする。そして靴を脱ぎ中に入り、数珠はないが合掌して「南無阿弥陀仏」と二度声に出して復唱してもらう。寺にお説教を聞きに行く年配者でも念仏の声が聞こえなくなったと言われて久しいが、役に立たないことは必要なしという確固たる合理的な自分への執着心の表れだろうか。教えがわかってもわからなくても念仏する、これが肝要だ。かつて三河門徒が寄進した約17万6千枚の瓦が乗る本願寺の巨大な本堂は、他宗の寺院に比べ圧倒的に参詣席のエリアが大きい。各々の家庭の居間は何畳あるのか知らないが、御影堂の畳の数は927枚ある。個人的な欲望の成就をお願いする対象として崇拝すべき仏や、美術品として価値がある大切な仏像を安置しているのでなく、より多くの人々に阿弥陀仏の願いに触れて欲しいと先達が後世に残してくれた建物だからだ。

 子供達は学校のテストで点数を付けられる。人間や個性に点数など付けれるはずもないが、それが当たり前となり、できれば良い子、できなければダメな子となる。常に上を目指すよう教育され、数値で評価され、比較され、競争させられ、出来が悪いと脱落し排除される、日本の教育システムの基本原理だ。しかし、お寺にテストはない。誰も代わる者のない、そのままのあなたが尊いのだと仏さまが私達を見つめている。人間は選ぶ存在、仏は摂取不捨、誰も見捨てない。皆違って皆尊い。これがないと、人と出遇うこともできないし、自分の人生を引き受けることもできない。いつも自分の都合で生きてきた。けれど世界中の人達がそれぞれ違うのに、自分こそ正しいとすれば皆間違った人にしてしまう。君の嫌いな友達も大切な命や。太陽も大地も含めいのちは色々な繋がりを生きている。頑張っている君達も偉いが、小言がうるさいお母さんも頑張る場所を与えてくれる一人だ。身勝手な善悪の物差しで、自分や他人を傷つけてきた我が身に気がついて欲しいという願いを、多くの念仏者たちが命懸けで守ってきたお寺が本願寺だ。そんな話をしていて、私は私のままで尊いという感覚に初めて触れ「すごいね。チョー癒された」と言って素直に歓んで帰った子供達の姿が印象的であった。

神社でお願いするのは5分で終わる。寺で自分を見つめるのは時間がかかる。寺本温

 私達大人も、毎日のように物差しで迷い続ける。例えば、健康が一番大切だと信じることで自分を苦しめる。人間として生まれたことは、皆が老い、病気にもなり、何時でも死んでいく。誰もが避けられない、当たり前のことに苦悩する。都合が悪いことに苦しむのだ。設定温度を18度にしたい私は、25度にしたい嫁に仕方なく我慢する。映画でも酒でも生き方でも、自分の好きなものに価値を見出し、その良さがわからない者を批判する。下の者を見つけ出し自分の価値を確認するのだ。何かできることに価値があるとし、できないことの多い晩年には生きる意味を失う。結局、金さえあればと人間らしさすら曖昧になる。何一つ思い通りにならないのに、思い通りが幸せだとする罪悪は何人たりとも逃れられない。あるがままに苦しんだり困ったり悩んだりしている私達の悲しみから、阿弥陀仏の本願が生まれてきた。そのことに目覚めたお釈迦さまがお念仏を説かれ、親鸞聖人がその他力の世界に触れ、聞いた南無阿弥陀仏の教えに頷いた人々が歩んできた道が今ここにある。

[文章 若院]


«講師紹介 松田亜世師≫

 私が生まれた昭和48年に亡くなった祖父・伊勢研学の祥月法要の法話は、京都より松田亜世さんにお願いしました。本文中の修学旅行生案内を管轄する部署である真宗大谷派青少幼年センターの主幹をされている、昭和54年生まれの新進気鋭の坊さんです。金沢の真宗門徒の家庭に生まれ、慶応義塾大学を卒業した後に30歳で得度し僧侶となり、現役のシンガーソングライターとしても活躍されています。ひょっとして歌も聴けるかも。どなたも数珠だけお持ちいただき是非ご一緒に聴聞ください。


 いのちの問題のうえに、南無阿弥陀仏が響いてきた。 佐野明弘


 逃げれば暗い。引き受ければ明るい。


≪工事の進捗状況≫

① 木部の関係

 本堂の天井に「彫刻板」が取り付けられました。外陣には「花鳥風月」の図柄の板、矢来内の天井には奈良・東大寺の「大仏殿の古ケヤキ」が嵌め込まれました。内陣の天井は折り上げの形態で天井が持ち上げられ、その天井部分は市松模様です。朱・黒に漆が塗られた山号紋(一向山)、八藤紋(大谷派の紋)の彫刻板が組み込まれていきました。

 大工(棟梁:森等さん)諸氏は、昨年の8月に工事を再スタートさせた。ここまで11ヶ月間担ってきましたが、残すところあと2ヶ月ほどで完了予定。7月に入って気温がグングン上がってきましたが、作業場全体は「素屋根」で覆われていますので「日陰」状態です。それでも外気温が30度を超せば、数台の大型扇風機が作動する。北側からのひんやりした風を作業場に送り込んでいます。退勤は午後の6時過ぎ、宿舎に戻られます。土、日曜日は、岐阜や滋賀県の家に帰ります。月曜日の朝から現場に入られます。

 内陣の壁は、耐震を考慮したパネル仕上げが取り入れられています。仏間である内陣は、南から余間壇、御代前、中尊、祖師前、余間壇に区分けされてきました。仏間らしさが感じられるようになりました。堂内の壁面には「貫・彫刻=唐獅子・天人などが彫られている」などが納められて、これらが<浄土荘厳の美>として施工されます。

②屋根の関係

 7月中旬に屋根のほぼ全体が施工完了。昨今は棟の覆い部分の調整、下がり棟の装飾瓦の取付け、唐破風上部の仕上げ工事などが進行中、合わせて「雨樋の工事」が始まりました。屋根工事は当初5月下旬には終了するとして始まったのですが、称念寺の屋根工事は、受注した(株)カナメにあっても「本瓦葺・ステンレス」の工法は、国内初チャレンジであったため、結局50日ほど工期が遅れたこととなった。7月の中旬には屋根施工の検査を受けました。屋根葺き職人さん方はときに、朝6時半から始め夜9時頃まで照明を点けたなか作業され、遅れに対処されていました。

③素屋根の関係

 外回り壁面には雨の吹き込み対策として「水切り・ステンレス」が取り付けられましたが、この工事もカナメ一宮支社が受注した。上記のごとく屋根工事が遅延したことで、「水切りステン・取り付け」も大幅に遅れました。「素屋根」の骨組みは、樋の設置、外壁の左官工事にも連動します。その影響で「壁・しっくい塗り」の左官工事が伸びました。現在下塗りを終えてこれから1週間ほどで「上塗り仕上げ」の工程に変わります。外部の壁塗りは、今月末までに終えるよう指示されています。

 本堂右手は「玄関」です。その廊下の上に小さいながら「太鼓楼」が載っています。その箇所の「壁塗り」を施工中、2階の釣鐘窓のデザインがくっきり表れてきました。本堂内部の「左官・壁塗り」はこの後秋の彼岸頃まで継続されましょう。

 屋根の樋、壁施工の作業足場としての意味もあった「素屋根」は8月初旬に「解体・取り外し」が組まれました。素屋根設置は「鳶職」の腕の見せ所でもありました。滋賀県在の(株)鳶隆さんが取り仕切りました。2年半の期間、本堂・玄関などの木造部分全てを覆いつくし、主として降雨対策に大いに活躍してくれました。おかげで構造材、造作材などが、一切水に濡れることから逃れることができました。

④その他

 電気配線、ガス管設置、水回りの施工などの工事も順調に進められています。10月中旬までに進められます。続いて「石工事」が、本堂の入り口、玄関口、山門からの石畳の手配がなされています。10月末に「完工検査」が予定されています。その後本堂の仏具の設置・工事に移ります。


 朝顔に 釣瓶とられて もらい水  加賀の千代女


«落慶の法要≫
 
 明年3月25日、26日に厳修予定。お稚児さんは、3月26日(日)の午後「参道列」として出発地から行道あり。募集は11月頃を予定しています。


«朝のお勤め≫

日時:8月1日(月)~10日(水) 午前7時~7時半

 各地で、ラジオ体操が行われます。この期間中ラジオ体操終了後、称念寺会館にて7時より、親子、祖父母たちと正信偈のお勤めをします。みなさんご一緒に唱和しましょう。


«お盆の行事 万灯会≫

 寺の墓地「一向浄苑=知立市東栄」ではお盆の13日、14日に「万灯会」を勤めます。両日とも午後6時から申し経を受付します。また両日、午前7時から9時まで「朝の申し経」も勤めます。

 お盆のお荘厳:お内仏の仏具をおみがきをし、夏用の打敷を掛け、切子灯籠を下げます。


 鬼灯は 暮れてなほ朱の たしかなり  及川貞





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2016年8月号

良い子・ダメな子・仏の子
発行所
真宗大谷派 称念寺
発行人 住職 伊勢徳