寺報 清風











 新聞、雑誌を読むおりに余裕があると、時に川柳・俳句・短歌の投稿欄に眼をやる。その中でも川柳は親しさがあってなじみやすい。わずか十七文字の短い詩である。十七字ではあるが、日ごろの何気ない状況・場面をうまく題材にして心の本音を言い当てたり、社会状況を簡潔にしかも滑稽に、ときに風刺をきかせてうまく表現している。ある日の新聞に載っていた。

 舌がこえ
  うまいものが
   減り

 食糧難であった幼少時には、何でも美味しくいただけたのに、昨今のような飽食の時代になると、かえってどんなご馳走も美味しくいただけなくなった私達の姿を如実に描写している。

 かつて報恩講になると、白いご飯が食べられることを期待してうれしく待ち望んだものだ。食卓ではかなり黒っぽい麦飯が常であったが、この時ばかりは白いメシにありつけるのだ。お勝手方が「くど」で大きな「はそり」飯を炊く、炊き上がると釜の底には「おこげ」が生じる。これを強請って「おこげ」をおにぎりにしてもらう、すぐさまほうばる「うめえー」。こうした光景が懐かしく思いおこされる。私が小学生の頃のシーンです。

 今もって質素である報恩講の「おとき」だが、今でも親しみを感ずる。近ごろ珍味などを口にして『まいうー』というふうにも言われるが、それに対して素直に『美味しくいただきました、ご馳走さまでした』と敬虔な言葉がふさわしい場面をかもし出す。お御堂でありがたい法話を聞き終えた後であることも手伝って、会食者ともども、この時ばかりは素直に口から出る座となる。

 什器の「お平」には大根・あげ・里芋が、「お壷」には煮合えが、「汁椀」には味噌汁が入る。このメニューはずっと変わらない。現在使用している什器が明治・大正時代に揃えたもののようだから、それ以後同じメニューが続いていることだろう。漆器の膳・椀は徐々にヤケたり、欠けたりする。椀の中が茶色に変化すると塗り直しとなる。そのため寺には輪島塗の御用聞きが頻繁にやって来る。こうしたことから私自身も用途は違うが、漆・柿渋を常時持ち合わせ、折を見て仏具の補修にあたったりする。

 だが「飯椀」の中身だけは近代代えた。境内の公孫樹の実である銀杏を食材として入れるようになったこと。住職が銀杏の皮むきを、近年嫌がらずに担当するようになってからのことです。10月上旬から銀杏の実が少しずつ落ち始めます。本道の裏が一番大きく、次が園庭の樹、その他です。早出の保育士も毎朝拾い集めてくれます。まとまったところで「皮むき」となれば私の出番、臭いが強烈ですが、一年に数度のことですし、現在は「電動皮むき機」を使用しています。モーターの調子を見計らっての作業は、かっては手作業でしていた頃に比べれば、今は忽ちに終えることができます。

 その後に干す、あらためて選り分けるといったことを含めて、「おあさじ」のお詣りいただく方の手伝いもあって例年スムーズに進んでいきます。しかしながら今年の銀杏は不作でした。天候によるのでしょうか?とりわけ報恩講にあたって、いろいろとお手伝いをしていただく方々まで、充分にお配りできるかと心配している現状です。

 報恩講の2、3日目には、15畳がぶち抜かれた大部屋に、100余人分の本物の漆器が並べなれます。お膳の席も一部設定してあります。また椅子席をご要望される方は、申し入れてくだされば別所にて対応いたします。

 終わったあとの器の後始末も大変ですが、丁寧に保管することが長持ちさせる方法であろう。先人たちの取り持ちで賄われた高価な什器であることを強く思う。この後も大切にされていく什器のひとつです。

 食事に限ったことでなく衣食住すべてにいえることだが、満たされれば満たされるほど、いよいよ不平不満が増幅するように思われる。私たちは一体どうしたら満足感を得ることができるのであろうか。

 まずは私たち大人が念仏の教えに出遇い、苦難をも受けとめ、心豊かな人生を送ることではなかろうか。3日間の報恩講です、仏法聴聞のご縁をいただくよう、ご門徒各位にご参詣をお呼びかけさせていただきます。

 勿体なや
  祖師は紙子の
   九十年
           (句仏上人)





<大谷婦人会全国大会 IN 名古屋>

 さる9月15日全国から会員2千余名が結集して平成17年度全国大会が名古屋国際会議場センチュリーホールで開催、拙寺の婦人会員も55名が参加いただいた。50名の名古屋音楽大学のオーケストラと、2百余名の合唱団による絶妙なハーモニーの調べで音楽法要で幕をきった。このプログラム中の“表白”の時には、3階から“散華”が舞いおりた演出も新鮮であった。続いて「記念大会」が催され、婦人会の聞法の輪が更に拡がることが願われてあることを確認した。挨拶等の後、池田同朋大学元学長が「いのちが喚ぶ、なむあみだぶつの名声」と題して法話を聴き参加者へ感動を与えた。このプログラムの進行にあたって「総合司会」の大役を坊守・順子が緊張する中で、無事に担った。またロス別院からの代表として若坊守・友香の顔もあった。

 名古屋城が一望できるウェスティンホテルで「交流会」が、当日の夜開催されて、1千2百名が参加するという大盛況ぶりであった。大きな拍手の中、入場した大谷妙子さまのスピーチから始まった。「いつもは、ご門主さまと二人だけでいただいていますので、このように多くの方々と一緒に食事をしますと、どこからどのように料理を口に運べば良いのかと唯々戸惑うばかりです。しかし心は戸惑っても口は戸惑っていませんので、お料理だけは、一つ残さずしっかりと頂戴したいと思います。皆様も楽しい歓談とお料理を心待ちにされていることと思いますので短く、ここで終わらせていただきます。」とユーモアあふれるお言葉は、和気藹々のムードとなって進行した。後半は各地からのアトラクションとなった、近年洗練された出し物が多くなったという。このディナーパーティーには知立支部の25名が、また私は孫の“小晴”をだっこして出席した。会長さまに挨拶に出向いたこともあって、アッという間に2時間が過ぎてしまった。(文化時報を一部に引用しました)


<推薦図書>

『もったいない ばあさん』
 物を大切にする心をわかりやすく伝える創作絵本。残さず食べる、ミカンの皮は干して風呂の入浴剤代わりに使用する…。主人公のもったいないばあさんがちょっぴり厳しく生活の知恵を教えてくれる。MOTTAINAIキャンペーン事務局推薦図書。講談社・千五百円。作・絵 真珠まりこ。

『ブッダと結婚したい』
 中国語の翻訳書、世界的大ベストセラー。著者=衛慧は現在、ニューヨークに住む中国女性。今春来日の折には雑誌『アエラ』の表紙になった気鋭の作家。『上海ベイビー』で衝撃的に文壇に登場し、以来注目を浴びる。友人毛さんの知人であることから、ぜひとも紹介下さいと頼んでいたが、今秋ようやくにして面談がかなった。奇抜な題の中は、日本男性との愛の葛藤を切々と綴る。アメリカで映画化の話が進行中と。初秋の9月12日、上海ガーデンホテルで彼女とようやくにして対面する場が設けられた。生活および文化の違う楽しい話題は、時を忘れて深夜まで続いた。著者に揮毫いただいた「英文混じりの碑」が、年末までには境内に置かれていることでしょう。講談社・千八百円。





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2005年11月号

報恩講の食卓
発行所
真宗大谷派 称念寺
発行人 住職 伊勢徳