寺報 清風










 晨朝のおつとめは、金障子前に置いてある平?(おりん)を2打叩いて『帰命無量寿如来』と発声してスタートする。下陣の参詣諸氏は、住職の声の音程を耳で聞きとめ、2行目から『南無不可思議光』以下を共に唱和していく。このような場面は法事の後半に『正信偈』を一緒に読む、お通夜、初七日の法要などでも見かけるシーンです。

 ところが発声する声の高さは、元来大谷派にあっては決められていないという。かねがね不都合であると感じていた。声が低い男性もいれば、やや高めの女性など様々です。かわいい園児(5歳児)も本堂で、おつとめの練習に参加したりする。

 後の参詣者の顔ぶれで音に配慮しなくては、調和あるおつとめにはならない。音の高さが肝心。これがなかなか難しい。時に「しまった、高すぎた」といったような場面に多く出くわしてきた。大法要などでは緊張のあまり萎縮して、高域の音が出なく冷汗をかいたシーンも思いおこされる。

 正信偈・草四句目下と近年最もベーシックな同朋奉賛式で、多くの参会者と快いおつとめのできるピッチ(音の高さ)をずっと探ってきた。声明の専門の方たちに、機会あるごとに問い尋ねてきた。しかし「音の高さは、決まっていない」と返ってくるばかり。

 テンポ(速度)についての質問も、答えはいつも「一頁を、一呼吸で」とだけ。これではスピードが速すぎると思う。更に言えば、幼児・老齢者の肺活量などは一体どれほどのものか、四分音符が1分間に何拍?などと標準的に設定したらと切に思うことである。“同朋唱和”を推奨している教団であるなら、なお更なのでなかろうか。

 ようやくにして大勢でつとめる基準は、洋楽器でいうラの音が良い、と感じるようになった。老若男女、この音から始めると程よい唱和になる場面になるからだ。科学的に言うとラは440Hzの高さである。オーケストラに詳しい人によるとベルリンフィルやウィーンフィルはわずかにではあるが、それより高い音で演奏しているようだ。弦楽器の糸を強めに巻き上げたほうが、音に輝きを増すということから上げるようだ。

 雅楽も不思議なことに黄鐘(おうしき)という、ラにあたる音を調律の基準音としている。大学卒業後に『篳篥』と『笙』を習い始めた頃、雅楽器の調律は何を基準にするのか尋ねたことがある。答えて曰く「黄鐘の音を。四天王寺の鐘の音に合わせるのだ」と。四天王寺の鐘とは?意外に思ったが、このことは「徒然草にでていますよ」と補足された。家で本を紐解いて捜してみたところ、二二〇段にあった。「雅楽の調律音の基準は、六時堂(四天王寺)の前の鐘なり。その声、黄鐘調のもなかなり。」もなかとは、和菓子のことでなくピッタシの意でありました。

 “黄鐘調の?”を求めて京の有名仏具店を訪ねたがなかなか見つからなかった。『音程を指定しての受注は未だかってありません。音の高さは解りかねます。響きはとっても良く、いい音色でしょう?』と期待に答えてはくれなかった。受注が少なくて今でも手作り品であるため一品ごとに音程が違っているのだ。よって出来上がった折々に持参いただいた。本堂の片隅にあるピアノのラの鍵盤を叩く。その音に“もなかの?”を求めて・・・。数年かかって、ようやく納得のいくものが届けられた。

 伽陀(かだ)に付物(つけもの)のある時は、声(腹式呼吸)の方にチューナーを向けて、すばやく音程を調べるシーンを見かける。そして雅楽演奏者にそーっと知らせる。絶対音感の耳を持ち合わせている人ならいざ知らず、私たちが耳で聞いた音の高さを、当てるといったことはなかなか難しいからである。

 ちなみに平?(ひらきん)に向けたデジタルチューナーは、442Hzの数値のところでランプの点滅が始まります。音の高さを聞いてそのピッチを基にして、『報恩講』の差定をつとめさせていただきます。


PS 雅楽の先生には、長く指導いただけなかった。父が入院し始めた頃から、練習が休みがちとなった。だが指導を受けた側の私は忘れない師ですが、大先生にとっては多数の生徒の中の一人でしかない私のことなどすぐに忘れたに違いない。1対1のきつい雰囲気の中での1時間であった。終了間際に坊守さんが、茶菓子を運んできてくださるとようやく安堵できた。ある時、「先生、お庫裏さま、お願いがあります。私に男の子が授かった、跡取り息子の名前は先生の名前である“ケンシ”と付けたいと思います。いかがでしょうか?」隣の奥様も嬉しそうに話に耳を向けられた笑顔が思い起こされてくる。「ご子息誕生か。時は秋だが、気分は双調(そうじょう=基音がソの音)じゃ。」双調の曲は「春庭花」などのようにほのぼのと春めいた調とされていることから。師(羽塚先生)のつぶやきを今も記憶している。「あなたのお子の名をケンシとな。げに喜ばしきこと」と。



<帰敬式のご案内>

 帰敬式は、おかみそりとも言われ、「仏」「法」「僧」の三宝に帰依し、宗祖・親鸞さまが明らかにされたみ教えに私の人生をたずね、門徒として新たな人生を歩みだすことを誓う大切な儀式です。受式されますと仏弟子としての名前である法名(釈○○あるいは釈尼○○)が授与されます。

 日時:3月3日〜8日
 場所:三河別院の報恩講にて
 受式費:2万円

 詳細の問い合わせはお寺まで。


※役員会(総代)の会議から

 4月からの新・役員会議は、翌月の行事を確認した後、議題はいつも“本堂計画案”に移ります。特に課題として@耐震構造について、A畳から椅子に変わりつつある参詣形態の変化について、Bバリアフリーについて、などを話題にしてきました。また大手社寺建築の業者(@名古屋支店=松井建設、A京都支社=金剛組)から現・本堂を“診断”していただき、レポートの提示を受けました。2・300年に一度の大事業でもあります。課題をしっかり掘り下げ、多くの問題点を見据えるよう話し合い、討議を続行しています。

 21日からは報恩講が執行されます。お檀家に皆々様のご参詣・ご聴聞をお願い申し上げます。


※世話方の任期について

 明年の4月30日で現在の世話方の任期が満了になります。明年の5月からの2年間が任期です。今の世話方さんが、次の方をお願いに上がります。何卒よろしくお受けいただきますようお願い申し上げます。


※記念品をお届けします

 本山のご修復に本年度まで“瓦懇志”を集め、また本年の4月に厳修されました三河別院にも“ローソク料”を計6年間、拙寺からの“お集め全てに完納”いたえだいた方々に届いています。6年のデータ集計した記念品(粗品)です。世話方さまからのご案内などの機会に、年末までには@本山、A別院の記念品をお届けさせていただきます。市外の方には郵送させていただき、紙上をもって本山・別院に代わって御礼申し上げます。

役員・世話方一同











2007年11月号

四天王寺の鐘
発行所
真宗大谷派 称念寺
発行人 住職 伊勢徳