境内の梵鐘と鐘楼



 
 現在は山門前に



  
 映画『山の郵便配達』



 
  霍建起揮毫




  蘇童書『流水不腐』



 
  莫言揮毫 『来』





 
  莫言著 『雪と餅』






 衛慧揮毫 『嫁給佛』



境内の碑

 寺域の一隅に新たな石碑を建てた。映画監督の「霍建起(フオジンチー)」さんの揮毫したものだ。昨年(平成19年)の秋に来日、京都で再会した折に依頼した筆文である。彼が製作した映画の中で、特に好評を博したのが『山の郵便配達』、最新のものでは『故郷の香り』(原作『白いブランコ』莫言著)です。

 これらの作品は感動的な心の機微を表現して、日本で上映した中国映画の中で最多の観客動員数を獲得し、清涼感とともに優しさの表現が話題となりました。

 もともと北京でも6年ほど前に、映画関係者のパーティーでご同席させていただいた方だ。その時には霍さんについては特別注視したわけではなかった。デビュー作『山の郵便配達』の完成直後の上映前であり、ましてや後に「金鶏賞(アカデミー賞)」を受賞する前のことであったから。

 彼よりも、その宴の中に「蓋莉莉(ガイ・リーリー)」という有名女優がいたからだ。何とかお近づきになろうとして彼女の右側の席をとった。蓋さんは、テレビドラマ『大地の子』(原作・山崎豊子)の主人公・陸一心の初恋の人を演じた気品ある美女である。(親しくなれず、一緒に写真を撮るのが精一杯であったが)

 昨秋、私は遼寧省・寧波(ニンポウ)の古刹にあった。その寺歴を説明してくれた僧の話の中で、丁度一ヶ月前に監督「霍建起」さんが新作の舞台として、ここ天童寺を参観された旨知らされた。彼の目的と私の関心事が一致すると驚いたことであった。聞けば古、日本からの留学僧を主題にした映画(仮題・天童風鈴)を製作するとしての事前観察との事でした。

 その霍さんの来日を聞き及んだ私は、京都のホテルに駆けつけた。その頃には既に知る人ぞ知る有名人。あの折の、北京での失礼さも気遣って面談には『衣』を着けて臨んだ。これが功を奏した。あの時のちょっぴり変な日本の坊さんを、彼の記憶の中から呼び起こしていただいた。私にとって「法衣」は時に、謙虚な対応をさせてくれるから・・・。

 酒が進んだ頃合に、用意してあった画仙紙・毛筆を出してお願いした。「あなたにとって映画を撮ることは?また、人生とは?」それについて筆を下ろしていただけませんか、と。そしたらすぐさま「問いが深すぎる。それこそ、その問いは僧分であるあなたの仕事・役割でありませんか?」と、困惑気味に一蹴されてしまった。その雰囲気を察知して周りの友人たちは、別の話題を和やかに取りつくってくれた。

 時計の針が進んで、20日と変わった午前2時、もう遅いので部屋に行って休みましょうと散会となった時、突然霍さん「それでは、書かせていただきましょうか」と墨液に筆を浸けた。

 千江有水 千江月
   万里无云 万里天

 最後に「日付も書きましょうか?今日は何日?」すかさず私が「今点是九月十八号(今日は9月18日)」とあえて違えて言ったため、18日と書き記された。終えたとき、、周り一同が「不是(違う)。今日は19号ですよ」と。間違いなく当夜は19日の晩であることを私は承知していた。敢えて言った。この再会の出来事を忘れることなかれと思ったからだ。

 それには9月18日、すなわち中国人にとっての1931年柳条湖事件、忘れ得ぬであろう抗日戦争に突入していった忌まわしい日。その事変日に合わせて、この良き再会した縁を忘れじと、あえてその日を認めてもらった次第。(注:9・18博物館は日中戦争の勃発地・旧奉天遼寧市大東区にある)

 漢詩を作るには対句が必要となるのが、欠かすことのできない手法です。語格や意味の相対した句を並べて表現する均斉の美をなす修辞法の対聯。加えて句の下に「象形文字」を添えたなかなか味わい深い作品です。訳してみました。

 いずこの河にも 河ごとの月が映える
  遥か雲なくば 澄みきった青空がどこまでも続く

 玄関前には四字熟語の<流水不腐>という碑がある。蘇州生まれの「蘇童(スートン)」さんの書。『火傷』、『貨車』、『大紅灯篭』などの日本語訳がある著名な小説家の一人。張芸謀(チャンイーモウ)監督の映画『紅夢』の原作者。

 南京市を訪れたおり、突然見ず知らずの私から電話した。そしたら何と、お会い下さった。暫くしてしたためた「まくり」を、日本に郵送して下された。表装して扁額として飾り、更に碑としました。

 莫言(モウイエン)さんの碑の一つは、門前の左側に設置してあります。『来』一字。ようこそ・ようこその意である。氏と「来」と書かれた碑のスナップが、NHK中国語講座の08年5月号に。まさに「称念寺の山門」といった写真です。4回にわたってTV放映された氏を紹介したコーナーの中で掲載された。

 もう一つの碑は『雪と餅』これは文学碑と言ってよいかと思う。幼児に聞かせたいお話として莫言さんが執筆下された、6編中の一物語の原稿から製作したものです。南門の左手に立っている。

 「衛慧」さんの『嫁給佛(坊さんと結婚)』もある。『上海ベイビー』で衝撃的デビューした女流作家。現在ニューヨークで活動中。『Sexuality and spirituality are together』と。

[文:寺報清風2008年6月号より]



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                境内の碑